『長電話』の復刊によせて
國分功一郎|哲学者
「ププーッ・プーッ・プーッ……グッギリ・グッギリギ・グッギリ……プーッ・プーッ・ププー・プッ」まで再現した、ほとんど手を加えていないように思われる、ライブ感にこだわった文字起こしにも、異様に充実した、匿名の執筆者による脚注にも、〈知りたい〉という時代の渇望が映し出されている。高橋悠治についても知りたい、坂本龍一についても知りたい、彼らが話していることも知りたい、彼らがどんな風に話しているのかも知りたい、とにかく知りたい、知りたいんだ!それは僕が少しだけ知っている八〇年代のもう一つの姿である。昔々の、インターネットなど影も形もない時代、プラザ合意もまだ先だ。日本社会は浮かれつつあった。けれどもそこにはまだ〈知ること〉に対する粗野な欲望がこんな形で生きていた。今の人たちがどんな風にこの本を読むのかは知らないが、そこにあふれる〈とにかく知りたい、知りたいんだ!〉は僕にとって活力の源だ。